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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「私はもう掃除に行って来たばかりで、あの家が厭になってしまいましたよ。暗いの、暗くないのッて」と嫂は岸本に言って見せて、一緒に電車で帰って来た節子の方をも見ながら、「どうして父さんはあんな家を借りる気に成ったろう。あの二階だけは明るいね」
「ええ、二階の方はねえ」と節子も母の顔を見た。
「でも二階の一部屋だけは随分暗い。あれじゃ何処からも日の映りようが無い」
「溝が近くないと好いんですけれどね」
「まあ、御免蒙って」と復た嫂が草臥れたらしく言った。「節ちゃん、お前も御免蒙って足でもお出し」
「叔父さん、御免なさいね」
と節子も言いながら、母と二人してさも草臥れたらしい足を横に延ばすようにした。彼女は白足袋を穿いた足を岸本の方へ投出しても、それを取繕おうともしないほどの親しみを彼に見せた。その日の節子は叔母さんの墓参りに行った日と同じように、平素に見られないような若さをも発揮した。
「でも、手伝いに来てくれた人があって好うござんしたよ。何もかもその人がしてくれましたよ」
こう節子は岸本に話しかけながら、母の側で片膝ずつ折曲げるようにして、谷中まで行って来た足袋の鞐を解いた。