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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
富も栄華もわたしの心の糧ではございませんから……旅からお帰りに成って半月ほどの間、なんにも咽喉を通らなかったほどのこの大きな喜びは、誰のところへ参りましょう。そうしたものにのみ与えらるる唯一の物では御座いますまいか。あの低気圧の何であったかは、漸くお解りでございましょう。どうぞ長い間のこの心を、そして心からの微笑みを御受け下さい」
この返事を受取って見ると、岸本は何よりも先ず節子の率直な告白をうれしく思った。「創作」という言葉でもって二人の間の結びつきを言い表そうとしてあるのにも心を曳かれた。岸本は幾度となく節子の返事を読み返して、彼女が書いてよこした短い言葉の間にはいろいろな心持の籠っているのを見つけた。彼女に言わせると、自分等の関係は最初こそあんなで有ったけれども、間もなく彼女が長い間求めていたものであることを見出したとある。この言葉は、長いこと岸本に疑問として残っていた彼女からの以前の手紙に、神戸で受取り巴里で受取りしたかずかずの腑に落ちなかった手紙に、彼女自身裏書して見せたようなものであった。岸本は長い旅に出ようとして神戸まで行った時、彼女から受取った最初の手紙の中に、既にもう彼が節子に対して気の毒がる一切の心持を彼女の方から打消してよこしたことを思出すことが出来る。