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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「節ちゃん、何にも関わずに置いて下さい。お茶だけ御馳走して貰えばそれで沢山です」
と岸本はそこへ茶道具を運んで来た節子に言った。
「叔父さんは今日から旅サ。今夜は宿賃を払ってお前の家に泊めて貰いますぜ」
と又た岸本が半分串談のように言って笑った。
その時、節子は新しく仕立てた唐桟の綿入を取出して来て岸本に見せた。それは彼女が高輪へ来る時の仕事着にと言って、わざと質素な唐桟を見立てさせて、岸本の方で彼女に買って与えたものであった。「有るもので間に合わせて置こうじゃありませんか」と嫂は言ったが、岸本は遠路を通って来る彼女のことを思って、それに同じ縞柄の羽織とを彼女への贈物としたのであった。
「お母さんが縫って下すったんですよ」
と節子は言って、彼女の女らしいよろこびを分とうとした。次郎が階下から上って来た。次郎は嬉しそうにそこいらを踊って歩いたり、姉の側へ寄って取縋ろうとしたりした。
「次郎ちゃんも好い児に成りましたね」
と岸本が言うと、次郎は姉を引立てるようにして、叔父の見ている前で背の高い姉の手にぶらさがるようにして戯れた。
「高輪に居た時分から見ると、余程これで違って来ましたよ」