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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

それを脱け去る時が、ほんとうに彼女の延びて行かれる時と思っていたからで。

弱い節子が気候に苦しむのは暑さよりも寒さの方にあった。何時も何時も風邪などばかり引いていて、ろくろく仕事の手伝いも出来ないで済まないとは、彼女がよく岸本の許へ書いてよこす言葉であった。極く寒かった間は、岸本は谷中の方に居る時の彼女の骨の折れることを思って、自分の家では寧ろ彼女を休ませるくらいにした。三月とは言っても復た気候は寒さを繰返しているような日であった。祖母さんや岸本が帰りの途中を心配したので、その晩は節子は高輪にゆっくりした。

「これは覚えがおあんなさるでしょう」

と節子は祖母さんの部屋の方から熱い茶なぞを運んで来る序に、自分の掛けている半襟を一寸岸本に見せるようにすることも有った。

「浅草で掛けていたじゃ有りませんか」

と彼女は言って見せた。

岸本は折を見て、節子のために下町の方から見つけて来た男の児の人形をそっと取出した。そう大きくもなく、小さくもないもので、着物も着せてはなかったが、眼なぞは男の児らしく愛らしく出来ていた。彼は何のつもりもなく、唯用達に行った序にそんなものを見つけて来たのであった。