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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

この節子の答えは岸本を静止さして置かなかった。実際、旅から帰って来た彼をもう一度節子に近づけたのも、あの不思議な低気圧であったから。

「ああそうか。そうだったのか」

と岸本は思い出したように言って、古い墓石の並んだ前をあちこちと歩いて見た。三年も節子が待受けていたのは、良い縁談でもなく、出世の道でもなく、旅から帰って来る岸本であったということが、最早疑問として残して置く余地も無くなって来た。節子に起って来た憂鬱の何であったかは、旅で貰ったかずかずの手紙の内容と相待って、何もかも一息に岸本の胸に解けて来るように成った。

「もう低気圧は起りません」

節子は感慨の籠った調子でそれを言って見せて、やがて墓の隅を離れた。

「椿が咲いてますね」

と節子が言出した頃は、彼女は既に崖を上って、新しい墓のある傾斜の地勢を岸本と一緒に歩いていた。しばらく二人で腰掛けて来た墓地の一区域も眼の下に見えるように成った。

「でも、三年の間よくそうして待っていられたね」と岸本は歩きながら節子の方を顧みて、「お前の手でも悪くなかったら、そうして待ってはいられなかったかも知れない」

「そうですね。