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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
その翹望は、悲しい暗い過去にばかりとかく拘泥り勝ちであった岸本の心を駆って、おのずと先の方に向わせるように成った。もし懺悔を書く日が来たら。それを想うと彼はもっとよく自分の心に聞いて見なければ成らなかった。
今まで射したことの無い光がこんな風に岸本の精神の内部へ射して来たばかりでなく、帰国の日以来とかく疲労し易かった彼の身体までが漸くその頃に成って回復の時に向って来た。寒暑、乾湿、風雨、霜雪、日光の度を異にした遠い異郷の方から帰って来て、本当に自分の身体に成れたと思うまでには彼は一年の余も要った。
新しい秋の空気は既に部屋の内まで通って来ていた。彼は漸く故国に帰り着くことが出来たかのような心でもって、葉と葉の奥に日の映った庭の見える縁先へ行った。熱い、寂しい感じのする百日紅の花なぞもさかりに咲く時であった。その花の色までが妙に彼の眼にしみた。そして自分の国の方のものらしい親しみを感じさせた。
九十四
九月の三日は節子に取って忘れられない日であった。彼女は自分の子供のために毎年その誕生日を記念することを忘れなかった。
「復た風引いて四日ばかり休んでおります。