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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
――まだ書かなくちゃ成りませんけれど、お父さんがいつも直ぐそこの御座敷にばかりいらっしゃるんですもの。気が気じゃありません。次郎ちゃんも来て、悪戯ばかりして書けませんから、復この次にね」
節子は初めてこんな精しい消息を泄らしてよこした。これを読むと岸本の胸にはいろいろ思い当ることばかりであった。節子の所謂「創作」がこんなに早く彼女の上に起って来たことは、幸か、不幸かは、岸本にも言えなかったが、すくなくも彼女が女の一生のうちの最も柔かく最も感じ易い時代を自分と共に過して来たことは今日までの二人の小さな歴史でよく想像することが出来た。
岸本の眼にある節子は、未だ落ちつくところに落ちついていなかった。彼女がこころざしていることを知るものは岸本一人の外に無かった。彼女の青春も既に過ぎ去ろうとしている。そしてその責は全く彼にある。彼は何物を犠牲にしても、この人のために真の進路を開き与えないのは嘘だと思った。
九十六
眼前にある平和な光景は寧ろ岸本の心を引留めることばかりであった。二人の子供は最早すっかり今の生活に慣れて、父と共に楽しい日を送りつつある。
「泉ちゃん、じゃんけんしようよ――」