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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
岸本のつもりでは、嫂が入院中のことは自分で引受けて義雄兄の方へは心配の掛らないようにしようとした。それを嫂への御礼にとも考えた。
節子は看護に疲れた顔を泣き腫しながら病室の方で岸本を待ち受けていた。岸本が病人の側で彼女と一緒に成った頃は、義雄も輝子も急いで集まって来た。死は既に嫂の身体に上りかけていた。何を視るともなく見張ったその大きな眼は僅かに他の人から岸本を区別することが出来るくらいであった。絶間の無い荒い病人の呼吸、医者や看護婦の部屋を出たり入ったりする音なぞが何となく臨終の近いことを思わせた。
谷中からは祖母さんが一郎と次郎を連れて別離を告げに来た。
「次郎ちゃん、もっと側へいらっしゃい」
と輝子が言添えた。
「お母さん、次郎ちゃんですよ」
と節子は母親の耳に口を寄せて言った。
「次郎ちゃんがよく見えますか」
「ああ見える。次郎ちゃんもよく来たね」
と嫂は苦しそうな息の中で言って、次郎の方へ痩せ衰えた手を差延した。祖母さんはその側に跪いたまま死んで行く自分の娘の方を見て掌を合せていた。
岸本が病院附の若い助手を探すために廊下へ出た頃は、日は既に暮れていた。