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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
一ちゃんは知らないと言うし、祖母さんは確かに置いたと言うし、まさか節ちゃんが取るようなことはすまいが、しかし疑って見れば家を出るつもりで取らんとも言えない……」
「節ちゃんはそんな人じゃ有りません」と岸本は兄の言葉を遮った。「あの人に限って、物を置いて行こうとも、取るような人じゃ有りません」
「それはまあどうでも可いとしたところで――」と義雄は言葉を継いだ。「何しろ、あの様子じゃ危くて仕様が無い。今朝は中根へ電話を掛けて、輝にも来て貰うことにした。輝でも来たら、どう節ちゃんも落付くものか知らんが、俺はそのままにしてお前の許へやって来た。節ちゃんが何と言うかと思ったら――馬鹿な、この好い話を虚偽の結婚だなんて。虚偽の結婚とは何だ。誰だってそういう風にしてお嫁に行く。中根が輝を貰う時だって、先方で俺の娘を見たことも無い。輝の方だっても知らない。それでも結婚して見れば、あの通り幸福な家庭を造れる。まあ誰が見たって、あれなら申分の無い夫婦というものだサ。何処の誰だって、女と生れて来て、今日お嫁に行かないようなものは無い。もしあれば、そんなものは片輪だ。俺の田舎には何百軒という家があって、一人としてその家に結婚しないような女は居ない。