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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

と言ったように見返り見返りした。ひょっとすると、当分これぎり兄を見る時がないかも知れない。この考えが閃くように岸本の頭脳へ来た。彼は誰を相手に言葉の上の争いをしようでは無かった。唯自分を投出そうとしていた。そして一切を生命の趨くままに委ねようとしていた。その前途の不安を胸に持って、彼は兄が別れを告げて行った後まで長いこと廊下のところに立ちつくした。

それから数日の後、岸本が節子のことを案じ暮しているところへ彼女から手紙が届いた。それによって岸本は節子の一度は遭遇しなければ成らないような時機が到頭彼女の上にやって来たことを知った。彼女は前にも一度あった縁談を復た布施さんから持出したことから始めて、布施さんがその話をして帰った後では父はもうすっかりその気に成っていたということを書いてよこした。自分へは祖母さんからその話があったが、堅く断ったと書いてよこした。それが父の意にさからって、今更そんな下手な哲学者の悟を開いたようなことが言えるかという烈しい父の言葉の末に、嫁にも行かないようなものは不具の外には無い、不具のようなものは養う義理も無い、最早親でもなく子でもない、今直ぐ出て行けというような話があったと書いてよこした。