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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

彼は新たに同じ事を悲まねば成らないような位置にその時の自分を見出したのであった。彼は節子に言った。「二度とあんな旅に出掛けるなんてことは、俺には出来ない。もしそんな場合が起って来るとしたら、俺は死ぬより外に仕方がない。さもなければ、寺院へでも入ってしまう。そんな話を聞いたばかりでも、俺はもうこの頭を剃ってしまいたく成った――」これほど彼は深い悲痛を覚えたことを思い出した。何という不安な日がそれから二人の上に続いたろう。節子はその心配を胸にもちながら、高輪から谷中の家へ引移って行ったことを思い出した。彼はまた節子から来た手紙の端に次のような短い言葉を読むまでは安心しなかったことを思い出した。

「最早僧坊生活の必要もなくなりましたから、御安心下さい」

岸本が自分と節子との結びつきをおろそかに考えないように成ったのも、彼女に対する自分の誠実を意識するように成って行ったのも、この悲哀に打たれた後から起きて来たことを思い出した。荒びたパッションが通り過ぎて行った後になって見て、一層その事がはっきりと岸本の胸に纏まって浮んで来た。

百二十四

しかしそればかりではない、岸本は節子と共に送った月日の間に、子供の時分から先入主となったいろいろな物の考え方なぞを変えさせられたことを思い出した。