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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
まあお前だからこのままだ」と復た岸本が言った。
「いえ、よくお似合になりますよ――」と輝子は若い外交官の細君らしい調子で。
「そうお前のように言ったものでもない。ここの家の内儀さんなぞは東京の人で、こういうものを見たことも無かろう。いや、笑うにも、何にも。まるで茶番にでも出て来そうだなんて。しかし仕事着としては実に具合が好いね。夏はどうかと思ったが、割合にそう暑くない。俺のように坐って仕事をするものには蚊に喰われなくて可い。外国なんかへ行って帰って来ると、こういう好いもののあることが分るね」
こんな話をして笑う間は、岸本は兄から絶交された身をも忘れて輝子と対い合っていることが出来た。しかし輝子の話が一度谷中の方の噂なぞに触れかけると、岸本は笑えなかった。
「こないだお父さんが一ちゃんを連れて渋谷へ見えましたっけ」と輝子は言った。「その時も節ちゃんの話が出ましたっけ。お父さんが私に、『お前も愛宕下へは行くな――言うことを聞かないと、お前まで勘当してしまうぞ』ッて、そう言うんですよ。私は私で考えがありますし、叔母さんの生きていらっしゃる中からお世話に成っといてお訪ねもしないなんてことは私には出来ない。