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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
さようなら」
節子はこれだけのことを鉛筆で書きつけてよこした。「創作のために払う犠牲は嬉しい」というような健気な言葉の書いてある紙の上には、離別の涙のそそがれた痕がにじんでいた。岸本はこれを読んで、どうやら真の進路のいとぐちが彼女の上に開けかかって来たことを想像し、幽閉も同様な今の境涯から動いて出て行かれるというのも確かに彼女の心からであると想像して見た。
その日、岸本は谷中の方から訪ねて来た民助を迎えて、新しい住居で別れの食事をした。節子が台湾行の旅費をも兄の手に託した。
「私はもうお見送りはしません――今度は遠慮します」
こう言って岸本は兄に別れた。民助はまた何時節子を連れて台湾の方へ向うというその日取すらも弟に告げようとはしなかった。
百三十九
今はもう岸本に取って、節子の旅立を蔭ながら見送るばかりに成った。彼女が涙の多い六年の月日を送った後で進んで遠い旅に出ようとするその前途を見まもるばかりに成った。
十月の晦日に、輝子は岸本の家を見ながら訪ねて来て、二階の部屋で妹の話をした。
「明日の午後一時に節ちゃん達も東京駅を発つそうです」と輝子は言った。