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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
傷ましい旅窶れのしたその様子で。手にした風呂敷包と古びた帽子とで。十年も前に見た鈴木の兄に比べると、旅で年とったその容貌で。この人が亡くなった甥の太一の父親であった。
妻子を捨てて家出をした鈴木の兄は岸本の思惑を憚るという風で、遠慮勝ちに下座敷へ通った。
「台湾の兄貴の方から御噂はよく聞いておりました」
こう言って迎える岸本をも鈴木の兄は気味悪そうにして、何を義理ある弟から言出されるかという様子をしていた。
「泉ちゃん、お出。鈴木の伯父さんに御辞儀するんだよ」と岸本がそこに居る子供を呼んだ。
「これが泉ちゃんですか」と言って子供の方を見る客の顔には漸く以前の旧い鈴木の家の主人公らしい微笑が浮んだ。
「伯父さん、いらっしゃいまし」と節子もそこへ来て挨拶した。
「節ちゃんか。どうも見違えるほど大きくなりましたね。幼顔が僅かに残っているぐらいのもので――」と鈴木の兄に言われて、節子はすこし顔を紅めた。
「私の家でもお園が亡くなりましてね」と岸本が言った。「あなたの御馴染の子供は三人とも亡くなってしまいました。一頃は輝も居て手伝ってくれましたが、あの人もお嫁に行きましてね、今では節ちゃんが子供の世話をしていてくれます」