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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
近いうちに節ちゃんのお母さん達が郷里から出て来て下さるだろうから、それまでお前も勤めていておくれ」
「あれ、旦那さんは外国の方へ」と婆やが言った。「それはまあ結構でございますが――」
岸本はこの婆やに聞かせるばかりでなく、子供等にも聞かせる積りで、
「俺は九つの歳に東京へ修業に出て来た。それからはもうずっと親の側にもいなかった。他人の中でばかり勉強した。それでもまあ、どうにかこうにか今日までやって来た。それを考えるとね、泉ちゃんや繁ちゃんだって父さんのお留守居が出来ないことは有るまいと思うよ……どうだね、泉ちゃん、お留守居が出来るかね」
「出来るサ」と泉太は事もなげに言った。
「父さんが居なくたって、お節ちゃんはお前達と一緒に居るし、今に伯母さんや祖母さんも来て下さる」
「お節ちゃんは居るの」と繁が節子の方を見て訊いた。
「ええ、居ますよ」
節子は言葉に力を入れて子供の手を握りしめた。
何時伝わるともなく岸本の外遊は人の噂に上るように成った。彼は中野の友人からも手紙を貰った。その中には、かねてそういう話のあったようにも覚えているが、こんなに急に決行しようとは思わなかったという意味のことを書いて寄してくれた。