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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

三

無心な少年に別れて、復た岸本は細い疎らな柳の枯枝の下った石垣に添いながら歩いて行った。柳橋を渡って直に左の方へ折れ曲ると、河岸の角に砂揚場がある。二三の人がその砂揚場の近くに、何か意味ありげに立って眺めている。わざわざ足を留めて、砂揚場の空地を眺めて、手持無沙汰らしく帰って行く人もある。

「何があったんだろう」

と岸本は独りでつぶやいた。両国の鉄橋の下の方へ渦巻き流れて行く隅田川の水は引き入れられるように彼の眼に映った。

三

六年ばかり岸本も隅田川に近く暮して見て、水辺に住むものの誰しもが耳にするような噂をよく耳にしたことはあるが、ついぞまだ女の死体が流れ着いたという実際の場合に自分で遭遇したことはなかった。偶然にも、彼はそうした出来事のあった場所に行き合わせた。

「今朝……」

砂揚場の側に立って眺めていた男の一人がそれを岸本に話した。

両国の附近に漂着したという若い女の死体は既に運び去られた後で、検視の跡は綺麗に取片付けられ、筵一枚そこに見られなかった。唯、入水した女の噂のみがそこに残っていた。

思いがけない悲劇を見たという心持で、岸本は家をさして引返して行った。