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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

五

「子供が居ないと、莫迦に家の内が静かだね」

こう節子に話しかけながら、岸本は家の内を歩いて見た。そこへ婆やが勝手口の方から入って来た。

「お節ちゃん、女の死骸が河岸へ上りましたそうですよ」

と婆やは訛りのある調子で、町で聞いて来た噂を節子に話し聞かせた。

「なんでも、お腹に子供がありましたって。可哀そうにねえ」

節子は針医の娘の髪を結いかけていたが、婆やからその話を聞いた時は厭な顔をした。

五

「お節ちゃん」

子供らしい声で呼んで、弟の繁が向いの家から戻って来た。針医の娘の髪を済まして子供の側へ寄った節子を見ると、繁はいきなり彼女の手に縋った。

岸本は家の内を歩きながらこの光景を見ていた。彼は亡くなった妻の園子が形見としてこの世に置いて行った二番目の男の児や、子供に纏いつかれながらそこに立っている背の高い節子のすがたを今更のように眺めた。園子がまだ達者でいる時分は、節子は根岸の方から学校へ通っていたが、短い単衣なぞを着て岸本の家へ遊びに来た頃の節子に比べると、眼前に見る彼女は別の人のように姉さんらしく成っていた。

「繁ちゃん、お出」と岸本は子供の方へ手を出して見せた。