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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

十二

しかし一番長そうに思われる細い金針が腰骨の両側あたりへ深く入って、ズキズキと病める部分に触れて行った時は、睡気を催すほどの快感がその針の微かな震動から伝わって来た。彼は針医に頼んで、思うさま腰の疼痛を打たせた。

「自分はもう駄目かしら」

針医の行った後で、岸本は独りで言って見た。手術後の楽しく激しい疲労から、長いこと彼は死んだように壁の側に横になっていた。部屋の雨戸の外へは寒い雨の来る音がした。

十二

年も暮れて行った。節子は姉と二人でなしに、彼女一人の手に叔父の家の世話を任せられたことを迷惑とはしていなかった。彼女は自分一人に任せられなければ、何事も愉快に行うことの出来ないような気むずかしいところを有っていた。その意味から言えば、彼女は意のままに、快適に振舞った。

しかしそれは婆やなぞと一緒に働く時の節子で、岸本の眼には何となく楽まない別の節子が見えて来た。姉がまだ一緒にいた夏の頃、節子は黄色く咲いた薔薇の花を流許の棚の上に罎に挿して置いて、勝手を手伝いながらでも独りで眺め楽むという風の娘であった。「泉ちゃん、好いものを嗅がして進げましょうか」と言いながらその花を子供の鼻の先へ持って行って見せ、「ああ好い香気だ」