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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
五十四
到頭彼は節子に宛てて、嫂に読んで聞かせても差支の無い手紙を書き、別に書いたものを同封した。その中に、彼は今まで節子に展げて見せたことの無い自分の心胸を打明けた。
五十四
節子は次のような返事を送ってよこした。
「わたしは心から微笑みました。幾年も笑ったことのない人になっておりましたのに……何もかもお話しますと申上げましたね。とうとうその時が参りましたよ。わたしはその時がこんなに早く参ろうとは思いませんでした。すくなくも二三年は待たなければ成らないかと思いました……なんにも自分の心を満してはくれなかったと申したことが有りましたね。幼少い時分からしていろいろな人をじっと見つめておりますと、どこか物足らないところが出て来るんですもの。ほんとうに自分を開放する気には成れませんでした。わたしどもの創作は、最初こそあんなでございましたけれども、間もなくわたしは長い間自分の求めていたものであることを見出しました。けれども、その頃は叔父さんは、ちっとも御自分の御心を開放しては下さいませんでした。それからあの三年の長い間、何一つ小さな物の影すらわたしの心に射すことは出来ませんでした。