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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

九十六

などと言って兄と共に遊ぼうとする繁には母の記憶が無いばかりでなく、兄の泉太ですら亡くなった母さんをよく覚えていないと言う程で、二人の子供は唯々父を便りにし、父と共に住むことを何よりの幸福としている。

「じゃん、けん、ぽん」

「ぱあと出て」

「ぱあと出て」

「ぐっと出て」

「ぱあと出て」

「ちょっきはどうだい」

こんな二人の子供の遊び声がよく廊下のところで起って、少年時代の昔へと岸本の心を誘うのであった。

この子供の許へ毎週に一度は節子が通って来て、彼等のために着物や袴の綻びを縫ったり、父の手で出来ない世話をしたりしてくれる。子供もまた谷中の方まで二人でよく遊びに行くように成って、祖母さんや、伯父さんや、伯母さんや、それから一郎と次郎とを見ることを楽みにしている。岸本さえ今まで通りにしていれば、何もこの子供等の幼い心を曇らせずに済む。そればかりではない。岸本の動き方一つではその影響は彼の身に近い一切の人に及んで行きそうに見えた。そしてその影響からもう一度彼の方に返って来るものは、実に自分の心に辛いものばかりのように見えた。

最近に、岸本はある雑誌を受取った。