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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百七
その時、彼は看護婦でも急に部屋の扉を開けて入って来るのを気遣った。幾度となく彼はそこに跪くつもりで、病人の寝ている側を往ったり来たりした。
百七
「死んで行く人に隠して置くなんて……そんな法は無い」
そう思いながら岸本は病院の門を出た。到頭彼は打明けようと思うことも言わず仕舞に、唯嫂の側で看護の時を送ったというだけに留めて、病室を離れて来てしまった。どうして本当のことというものはこう口に出せないのだろう、それを考えて、彼は病院の門を出てから独りで歎息した。
岸本が愛宕下へ帰って行ったのは昼近い頃であったが、自分の部屋に戻ってからもその事が半日彼の胸から離れなかった。夜になって、離座敷のひっそりとする時が来て見ると、余計にその事が思われた。既に病人自身が承諾し、病人の身内のものが承諾しても、まだそれでも万一の場合を顧慮して躊躇している主治医が手術を決行する時は、やがてもう機会の過去ってしまう時かも知れない。岸本は愚図々々している時ではないと考えた。三人の子供の寝沈まる頃から、彼は遽かに思い立って嫂に宛てた手紙を書いた。
「病院の寝台の上でこの手紙をお読み下さい――」