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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百二十九

節子がユウモアのある心持の時と言えば、極く近く顔を寄せて、まるでたましいの奥まで見込むように眸を合せることを好きでよくした。岸本はその節子の眸を見るような心持で、支那風の紅い紙箋に鉛筆で書いてある彼女の心の消息を読んだ。

「つくづく年は取りたくないものだと思います。私はお婆さんに成りましても、苛酷な心だけは持ちたくないと思います」

こんな嘆息したような言葉が節子の手紙の終の方に書き添えてあった。

百二十九

「オヤ、またおいそがしいところでしたかねえ」

と言って輝子が渋谷から岸本の下宿を見舞いに来た。一旦眼前の平和が破れてからは、岸本は一方に輝子を見ることも苦しく思い、一方には門を鎖してあるも同様に引籠り勝ちな今の身で、遽に遠くなってしまったような親戚に逢うことを懐かしくも思った。

「どうだ、俺はこの節こういうものを穿いて毎日仕事をしてる」

と言いながら、岸本は山国の農夫の着ける紺木綿のカルサンを着けたまま、自分で茶を入れに火鉢の側へ立って行った。

「東京でこんなカルサンなぞを穿いてる人はめったに無いね。奇を好むように思われるのも嫌だから、お客さまでもある時には大急ぎで脱いでしまう。