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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
夕立揚句の道は午後の日に乾いて一層熱かった。けれども最早暑中休暇だと思うと、何となく楽しい道を帰って行くような心持になった。何かこう遠い先の方で、自分等を待受けていてくれるものがある。こういう翹望は、あだかもそれが現在の歓喜であるかの如くにも感ぜられた。彼は自分自身の遽かな成長を、急に高くなった背を、急に発達した手足を、自分の身に強く感ずるばかりでなく、恩人の家の方で、もしくはその周囲で、自分と同じように揃って大きくなって行く若い人達のあることを感じた。就中、まだ小娘のように思われていた人達が遽かに姉さんらしく成って来たには驚かされる。そういう人達の中には、大伝馬町の大勝の娘、それからへ竃河岸の樽屋の娘なぞを数えることが出来る。大勝とは捨吉が恩人の田辺や兄の民助に取っての主人筋に当り、樽屋の人達はよく田辺の家と往来している。あの樽屋のおかみさんが自慢の娘のまだ初々しい鬘下地なぞに結って踊の師匠の許へ通っていた頃の髪が何時の間にか島田に結い変えられたその姉さんらしい額つきを捨吉は想像で見ることが出来た。彼はまた、あの大伝馬町辺の奥深い商家で生長した大勝の主人の秘蔵娘の白いきゃしゃな娘らしい手を想像で見ることが出来た……」