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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

五

彼は声を出して、叫ぼうとした。

その途端に、ガタリと扉が開く音がした。が、開いたのはその扉ではなくして、美奈子の寝室の扉であった。

純白の寝衣を付けた少女はまろぶように、父の傍に走り寄った。

「お父様! 何と云うことでございます。何も云わないで、お休みなさいませ。お願いでございます。お姉様にこんなところを見せては親子の恥ではございませんか。」

美奈子の心からの叫びに、打たれたように、勝平は黙ってしまった。

勝彦は、相変らず、ニヤリ/\と妹の顔を見て笑っていた。

丁度此の時、扉の彼方の寝台の上に、夢を破られた女は、親子の間の浅ましい葛藤を、聞くともなく耳にすると、其美しい顔に、凄い微笑を浮べると、雪のような羽蒲団を又再び深々と、被った。

五

自分の寝室へ帰って来てからも、勝平は悶々として、眠られぬ一夜を過してしまった。恋する者の心が、競争者の出現に依って、焦り出すように、勝平の心も、今迄の落着、冷静、剛愎の凡てを無くしてしまった。競争者、それが何と云う堪らない競争者であろう。それが自分の肉親の子である。肉親の父と子が、一人の女を廻って争っている。親が女の許へ忍ぶと子が先廻りしている。