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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
五
唖が、大切な機会に喋べろうとするように、たゞいら/\焦り立っているばかりだった。
「そう/\、貴女に申上げたいことがあったのです。つい、此間中から機会がなくて。」
青年は、大切なことをでも、話すように言葉を改めた。動き易い少女の心は、そんなことにまで烈しく波立つのだった。
五
相手がどんなことを云い出すのかと、美奈子は、胸を躍らしながら待っていた。
青年は、一寸云い憎そうに、口籠っていたが、やっと思い切ったように云った。
「此間中から、お礼を申上げよう申上げようと思いながら、ついその儘になっていたのです。此間はどうも有難うございました。」
夕闇に透いて見える彼の白い頬が、思い做しか少し赤らんでいるように思われた。美奈子も相手から、思いがけもない感謝の言葉を受けて、我にもあらず、顔がほてるように熱くなった。彼女は、青年から礼を云われるような心覚えが、少しもなかったのである。
「まあ! 何でございますの! わたくし!」
美奈子は、当惑の目を刮った。
「お忘れになったのですか。お忘れになっているとすれば、僕は愈々感謝しなければならぬ必要があるのです。お忘れになりましたですか。