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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

三

一寸は愚か一分も動かさなかった。勝手が違って、狼狽する木下に、一瞥も与えずに、彼女は怒れる女王の如き、冷然たる儀容を崩さなかった。

三

祝宴が開かれたのは、午後七時を廻っていた時分だった。集合電燈の華やかな昼のような光の下に五百人を越す紳士とその半分に近い婦人とが淑かに席に着いた。紳士は、大抵フロックコートか、五つ紋の紋付であったが、婦人達は今日を晴と銘々きらびやかな盛装を競っていた。

花嫁と云ったような心持は、少しも持たず、戦場にでも出るような心で、身体には錦繍を纏っているものの、心には甲冑を装うている瑠璃子ではあったが、こうして沢山の紳士淑女の前に、花嫁として晒されると、必死な覚悟をしている彼女にも、恥しさが一杯だった。列席の人々は、結婚が非常な評判を起した丈、それ丈、花嫁の顔を、ジロ/\と見ているように、瑠璃子には思われた。金で操を左右されたものと思われているかも知れないことが、瑠璃子には――勝気な瑠璃子には、死に勝る恥のようにも思われた。が、彼女は全力を振って、そうした恥しさと戦った。人は何とも思え、自分は正しい勇ましい道を辿っているのだと、彼女は心の中で、ともすれば撓みがちな勇気を振い起した。