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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
三
が、そのどれもが、此婦人の美しさを、少しでも冒すことは出来なかった。
泰西の名画の中からでも、抜け出して来たような女性を、信一郎は驚異に似た心持で暫らくは、茫然と会衆の頭越しに見詰めていたのである。
三
信一郎が、その美しき女性に、釘付けにされたように、会葬者の眸も、一時は此の女性の身辺に注がれた。が、その裡に、衆僧が一斉に始めた読経の朗々たる声は、皆の心持を死者に対する敬虔な哀悼に引き統べてしまった。
が、此女性が、信一郎の心の裡に起した動揺は、お経の声などに依って却々静まりそうにも見えなかった。
彼は、直覚的に此女性が、死んだ青年に対して、特殊な関係を持っていることを信じた。此女性の美しいけれども颯爽たる容姿が、あの返すべき時計に鏤刻されている、鋭い短剣の形を想い起さしめた。彼は、読経の声などには、殆ど耳も傾けずに、群衆の頭越しに、女性の姿を、懸命に見詰めたのである。
が、見詰めている中に、信一郎の心は、それが瑠璃子であるか、時計の持主であるかなどと云う疑問よりも、此の女性の美しさに、段々囚われて行くのだった。
此の女性の顔形は、美しいと云っても、昔からある日本婦人の美しさではなかった。