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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

六

「はい。」

美奈子は、慎しく答えた。が、心の裡では、『何処までも/\』と云う積であったのだ。

六

木賀から、宮城野まで、六七町の間、早川の谿谷に沿うた道を歩いている裡に、二人は漸く打ち解けて、いろ/\な問を訊いたり訊かれたりした。

美奈子の処女らしい無邪気な慎しやかさが、青年の心を可なり動かしたようだった。それと同時に青年の上品な素直な優しい態度が、美奈子の心に、深く/\喰い入ってしまった。

宮城野の橋まで来ると、谿は段々浅くなっている。橋下の水には水車が懸っていて、銀の月光を砕きながら、コト/\と廻り続けていた。

月は、もう可なり高く上っていた。水のように澄んだ光は、山や水や森や樹木を、しっとり濡していた。二人は、夏の夜の清浄な箱根に酔いながら、可なり長い間橋の欄干に寄り添いながら、佇んでいた。

美奈子の心の中には、青年に対する熱情が、刻一刻潮のように満ちわたって来るのだった。今までは、どんな男性に対しても感じたことのないような、信頼と愛慕との心が、胸一杯にヒシ/\とこみ上げて来るのだった。

話は、何時の間にか、美奈子の一身の上にも及んでいた。美奈子は到頭、兄の悲しい状態まで話してしまった。