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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
四
強盗! 泥棒! 強盗や泥棒が、あゝした襲撃を為すだろうか。もし、あれが直也だったら、縦令、勝平を倒したにしろ、彼の一生はムザ/\と埋れてしまうのだ。尤も、今でも自分のために、半分埋れかけているのだが。
そう思うと、瑠璃子は老爺を呼ぶ声も出なくなってしまって、再び其処へ立ち竦んだ。
が、瑠璃子の声に騒ぎ立った女中は、声を振り搾って老爺を呼んだ。
四
叫び立てる女中達の声に、別荘番の老爺は驚いて馳け付けて来た。強盗だと聴くと、いきなり取って返して、古い猟銃用の村田銃を持って来た。彼は手早く台所の棚から、カンテラを取り出すと、取り乱す容子もなく、灯を点じて、戸外同様に風雨の暴れ狂う広間の方へと、勇ましく立ち向った。もう六十を越した老人ではあったが、根が漁師育ちである丈けに、胆力はガッシリと据っていた。
瑠璃子は、勝平と相搏っている相手が、もしや恋人の直也でありはしないかと思うと、此の一徹の老人が、一気に銃口を向けやしないかと思う心配で、心が怪しく擾れた。それかと云って、強盗であるかも知れぬ闖入者を、庇うような口は利けなかった。台所に顫えている女中を後に残しながら、固唾を飲みながら、老人の後から、随いて行った。