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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

五

妾、貴君を弟に持ちたいと思うわ。が、貴君を夫にしようとは、夢にも思ったことはないわ。が、夫以外の一番親しいものとして、妾貴君に何時までも、何時までも、交際っていたゞきたいと思うのよ。ねえ! 美奈さん。貴女に妾の心持は分らない!」

瑠璃子は、意味ありげに、美奈子を顧みた。今まで少しも、分らなかった今夜の瑠璃子の心持が、闇の中に、一条の光が生れたように、美奈子にもほの/″\と分って来たように思えた。

五

美奈子には、母の心持が、朝霧の野に、日の昇るように、ようやく明かになって来た。

母は自分の心持をスッカリ気付いたのだ。青年に対する自分の心持をスッカリ知って了ったのだ。

母が、自分の面前で、何のにべもないように、青年を斥けたのも、みんな自分に対する義理なのだ。自分に対する母の好意なのだ。自分に対する母の心づくしなのだ。そう思うと、烈しい恥かしさを感じながら、母に対する感謝の心が、しみ/″\と、胸の底深くにじんで出た。

母は、やっぱり自分を愛して呉れる、自分のためには、どんなことでも、しかねないのだ。そう思うと、美奈子は、母に対して昨日今日、少しでも慊らなく思ったことが、深く悔いられた。