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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
破裂点
一
そうした彼の心の裡に、焼き付いたように残っているのは、先刻読んだ兄の手記中の一節だった。
『そうだ、一層死んでやろうかしら。純真な男性の感情を弄ぶことが、どんなに危険であるかを、彼女に思い知らせるために。』
が、兄が死んでも彼女は、少しも思い知ろうとはしなかった。兄の死を冷眼視するほど、彼女が厚顔無恥であるとしたならば、彼女を思い知らせるには、そうだ! 彼女を思い知らせるには。
そう考えたとき、彼の全身の血は、海嘯のように、彼の狂いかけた頭へ逆上して来た。
破裂点
一
強羅公園で、お互の心からなる浄い愛に、溶け合った美奈子と瑠璃子とが、其処に一時間以上も費して、宮の下へ帰って来たのは、夜の十時を廻った頃だった。
二人とも、心の裡では、青年のことが気になっていたけれども、それを口に出すことを避け合った。
が、部屋へ入ったとき、瑠璃子は遉に青年の寝室の扉に立ち寄って、そっと容子を窺った。
「もう、青木さんは寝たのかしら。」
そう云って、彼女は扉に手をかけて見た。それは平素になく内部から、鍵が、かけられたと見え、ビクリとも動かなかった。
「あゝ。もう、寝ていらっしゃる!」