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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
五
「美奈さん! 何うしたの、一体何うしたの。何が悲しいの。貴女一人残して置いて済まなかったわ。御免なさいね、御免なさいね。」
青年に対しては、あれほど冷静であった母が、本当に二十前後の若い女に帰ったように、狼狽えているのであった。
「貴女、泣いたりなんかしたら、厭ですわ。今迄貴女の泣き顔は、一度だって、見たことがないのですもの。妾、貴女の泣き顔を見るのが、何よりも辛いわ。一体何うしたの。妾が、悪かったのなら、どんなにでもあやまるわ。ねえ、後生だから、訳を云って下さいね。」
そう云っている母の声に、烈しい愛と熱情とが、籠っていることを、疑うことは出来なかった。
五
その夜は、美奈子も強いて争いかねて、重い足を返しながら、部屋へ帰って来た。
翌日になると、夜が明けるのを待ち兼ねていたように、美奈子は母に云った。
「お母様、妾葉山へ行って来ようかと思っているの。兄さんにも、随分会わないから、どんな容子だか、妾見て来たいと思うの。」
が、母は許さなかった。美奈子の容子が、何となく気にかゝっているらしかった。
「もう二三日してから行って下さいね。それだと、妾も一緒に行くかも知れないわ。