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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
六
「……それが貴女のために、ムザ/\と蹂み躙られてしまったのだ。覚えていらっしゃい! 奥さん。」
彼は、自分の感情を抑え切れなくなったように、こう叫んだ。
立っている華奢な長身が、いたましくわなわなと顫えて、男泣きの涙が、幾条となく地に落ちた。先刻から美奈子は、青年の容子を見ているのに、堪えないように、目を伏せていたが何と思ったのか此時ふと顔を上げた。
「お母様!」
彼女はかすれたような声で、初めて口を開いた。
六
「お母様!」
そう叫んだ美奈子の言葉には、思い切った処女の真剣さが、籠っていた。
「お母様、あのう、もう一度、どうぞもう一度、ゆっくりお考え下さいませ。青木さんが何う仰しゃったのか知りませんが、もう一度考え直して下さいませ。妾、妾……」
美奈子は、もっと何か云いたそうだったが、烈しい興奮のために、胸が迫ったのだろう、そのまゝ口籠ってしまった。
去りかけようとした青年は、美奈子の言葉を聴くと、一寸ためらいながら、美奈子の方を振り返った。
「美奈子さん。貴女の御厚意は、大変有難うございます。が、もう凡ては終ったのです。僕の心は、蹂み躙られたのです。僕の心には、今悲みと怨みとがあるばかりです。