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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
六
正式に突然求婚して、自分を駭かそうと云う悪戯かしら。彼女は、そんなことまで、咄嗟の間に空想した。
が、苦り切っている、父の顔を見たとき彼女の心は、急に暗くなった。縦令、それが瑠璃子の思う通りの求婚であったにしろ、父がオイソレと許すだろうか。心の中で、賤しんでいる者の子息に、最愛の娘を与えるだろうか。子は子である。父は父である。之れ位の事理の分らない父ではない。が、兄が突然家出して、さなきだに淋しい今、自分を手離して、他家へやるだろうか。そう思うと、瑠璃子の心に伸びた空想の翼は、また忽ち半以上切り取られてしまった。が、万一そうなら、又万一父が容易に承諾したら?
「あの! 杉野子爵がお見えになりました。」彼女の息は可なりはずんでいた。
六
父は娘の心を知らなかった。杉野子爵の突然の来訪を、迷惑がる表情があり/\と動いた。
「杉野! ふーむ。」父は苦り切ったまゝ容易に立とうとはしなかった。
父が、杉野子爵に対してこうした感情を持っている以上、又兄の家出と云う傷ましい事件が起っている以上、縦令子爵の来訪が、瑠璃子の夢見ている通の意味を持っていたにしろ、容易に纏まる筈はなかった。