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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

八

美奈子の心を不安にし、悩ました。あの青年と、自由に談笑している母に対して、羨望に似た心持が、彼女の心に起って来るのを何うともすることも出来なかった。

八

その日曜の残りを、美奈子はそわ/\した少しも落着かない気持の裡に過さねばならなかった。かの青年が、自分の家の一室にいることが、彼女の心を掻き擾してしまったのだ。

今までは、一度も心に止めたことのない客間の方が、絶えず心にかゝった。青年が母に対してどんな話をしているのか、母が青年にどんな答をしているかと云ったようなことを、想像することが、彼女を益々不安にさせ、いら/\させた。

彼女は、到頭部屋の中に、じっと坐っていられないようになって、広い庭へ降りて行った。気を紛らすために、庭の中を歩いて見たい為だった。が、庭の中を彼方此方と歩いている裡に、彼女の足は何時の間にか、だん/\洋館の方へ吸い付けられて行くのだった。彼女の眸は、時々我にもあらず、客間の縁側の方へ走るのを、何うともすることが出来なかった。その縁側からは、時々思い出したように、華やかな笑い声が外へ洩れた。若い男性の影が、チラホラ動くのが見えた。