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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
五
「いや、何うもしないのですが、あの方は何と仰しゃる方でしょう。」
学生は、一寸信一郎を憫れむような微笑を浮べた。ホンの瞬間だったけれども、それは知るべきものを知っていない者に見せる憫れみの微笑だった。
「あれが、有名な荘田夫人ですよ。御存じなかったのですか。曾て司法大臣をした事のある唐沢男爵の娘ですよ。唐沢さんと云えば、青木君のお父様と、同じ団体に属している貴族院の老政治家ですよ。お父様同士の関係で、青木君とは近しかったんです。」
そう云われて見ると、信一郎も、荘田夫人なるものゝ写真や消息を婦人雑誌や新聞の婦人欄で幾度も見たことを思い出した。が、それに対して、何の注意も払っていなかったので、その名前は何うしても想い浮ばなかった。が、此の場合名前まで訊くことが、可なり変に思われたが、信一郎は思い切って訊ねた。
「お名前は、確か何とか云われたですね。」
「瑠璃子ですよ、我々は、玉桂の瑠璃子夫人と云っていますよ。ハヽヽヽ。」と、学生は事もなげに答えた。
五
葬場に於ける遅参者が、信一郎の直覚していた通、瑠璃子と呼ばるる女性であることが、此大学生に依って確められると、彼はその女性に就いて、もっといろ/\な事が、知りたくなった。