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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
三
」
夫人の声にも、憎みと怒りとが、燃えていた。が、信一郎はたじろがなかった。
「死人に口がないと思って、そんなことを仰しゃっては困ります。貴女を、今日訪問した客に村上と云う海軍大尉があった筈です。まさか、ないとは仰しゃいますまいね。」
「よく御存じですね。」
夫人は、平然として答えた。
「それなら、青木君の遺言を受ける責任と義務とがあります。貴女に、もし少しでも良心が残っていらっしゃるのなら、今貴女にお目にかけるものを、平然と読めるかどうか試して御覧なさい!」
そう云いながら、信一郎はポケットに曲げて入れていたノートを夫人の眼前に突き付けた。
三
信一郎が、眼の前に突き付けたノートを、夫人は事もなげに受取った。ノートの重さにも堪えないような華奢な手で、それを無造作に受け取った。
鋼鉄の如き心と云うのは、恐らく今の場合の夫人の心を云うのだろう。鬼が出るか蛇が出るか分らないそのノートを、受け取りながら、一糸紊れたところも、怯んだところも見せなかった。
「おや、青木さんのノートでございますのね。」
夫人は、平然と云いながら、最初の頁から繰り初めた。繰っているその白い手は、落着きかえっている。