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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
美奈子
一
お父様! どうか妾を信じて下さいまし。瑠璃子は、一時の興奮に駆られて無謀なことを致すのではありません。ちゃんと成算があるのでございます。」
瑠璃子の興奮は何処までも、続くのだった。父は黙々として、何も答えなくなった。父と娘との必死な問答の裡に、幾時間も経ったのであろう、明け易い夏の夜は、ほのぼのと白みかけていた。
美奈子
一
「はゝゝゝ、唐沢の奴、面喰っているだろう。はゝゝゝ。」
荘田は、籐製の腕椅子の裡で、身体をのけ反るようにしながら、哄笑した。
「どうも、貴方も人間が悪くていけない。あんないゝ方を苛めるなんて、何うも甚だ宜しくない。貴方が、持って行けと云ったから、つい持って行ったものゝ、どうも寝覚が悪くっていけない。私は随分唐沢さんにお世話になったのですからね。」
木下は、遉に烈しい良心の苛責に堪えられないように、苦しげに云った。
「あゝいゝよ。分っているよ。君の苦衷も察しているよ。俺だって、何も唐沢が憎くって、やるのじゃないんだ。つい、意地でね。妙な意地でね。一寸した意地でやり始めたのだが、やり始めると俺の性質でね、徹底的にやり徹さないと気が済まないのだ。