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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
心の武装
一
心の武装
一
記憶のよい人々は、或は覚えているかも知れない。大正六年の九月の末に、東京大阪の各新聞紙が筆を揃えて報道した唐沢男爵の愛嬢瑠璃子の結婚を。それは近年にない大評判な結婚であった。
此の結婚が、一世の人心を湧かし、姦しい世評を生んだ第一の原因は、その新郎新婦の年齢が恐ろしいほど隔っていた為であった。二三の新聞は、第二の小森幸子事件であると称して、世道人心に及ぼす悪影響を嘆いた。小森幸子事件とは、ついその六七年前、時の宮内大臣田中伯が、還暦を過ぎた老体を以て、まだ二十を過ぎたばかりの処女――爵位と権勢に憧るゝ虚栄の女と、婚約をした為に一世の烈しい指弾と抗議とを招いた事件だった。
無論、新郎の荘田勝平は、当時の田中伯よりも若かった。が、それと同時に、新婦の唐沢瑠璃子は小森幸子などとは比較にならないほど美しく、比較にならないほど名門の娘であり、比較にならないほど若かった。
新聞紙に並べられた新郎新婦の写真を見た者は、男性も女性も、等しく眉を顰めた。が、此の結婚が姦しい世評を産んだ原因は、たゞ新郎新婦の年齢の相違ばかりではなかった。もう一つの原因は、成金、荘田勝平が、唐沢家の娘を金で買ったと云う噂だった。