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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
五
が、証拠がありますか? 兄が弄ばれて、自殺を決心したと云う証拠がありますか?」
青年の眸は必死の色を浮べていた。
「ありますとも。お見せしましょう。が、そう興奮しないで、ゆっくり気を落着けて下さい。」
そう云いながら、紳士は椅子を離れると、部屋の片隅に置いてある大きな鞄に近づいて、それを開きながら、中から一冊のノートを取り出した。
「これです。此の筆蹟には覚えがあるでしょう。」
そう云いながら、相手はノートを、籐の卓子の上に置いた。青年は、焼き付くような眼で、それをじっと見詰めた。表紙の青木淳と云う字が、いかにも懐しい兄の筆蹟だった。
「じゃ、拝見します。」
彼はかすかに、顫える手付で、そのノートを取り上げた。
恐ろしい沈黙が部屋の中に在った。ノートの頁のめくられる音が、時々気味悪くその沈黙を破った。
二分三分、青年は、だまって読みつゞけた。その中に、青年の腰かけている椅子が、かすかな音を立て初めた。見ると、青年の身体が、怒のために激しく顫えていたのである。
「何うです! これほど、確な証拠はないでしょう。遭難当時のお兄さんの心持が、ハッキリ解っているでしょう。