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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
二
それに続いて、慎ましい脣、高くはないけれども穏やかな品のいゝ鼻。が、そんな目鼻立よりも、顔全体に現われている処女らしい含羞性、それを思い出す毎に、信一郎自身の表情が、たるんで来て、其処には居合わさぬ妻に対する愛撫の微笑が、何時の間にか、浮かんでいた。彼は、それを誰かに、気付かれはしないかと、恥しげに車内を見廻わした。が、例の仏蘭西の少年が、その時、
「お母親さん!」と声高に呼びかけた外には、乗合の人々は、銘々に何かを考えているらしかった。
汽車は、海近い松林の間を、轟々と駆け過ぎているのであった。
二
湯の宿の欄干に身を靠せて、自分を待ちあぐんでいる愛妻の面影が、汽車の車輪の廻転に連れて消えたりかつ浮かんだりした。それほど、信一郎は新しく婚した静子に、心も身も与えていたのである。
つい三月ほど前に、田舎で挙げた結婚式のことを考えても、上京の途すがら奈良や京都に足を止めた蜜月旅行らしい幾日かの事を考えても、彼は静子を獲たことが、どんなに幸福を意味しているかをしみ/″\と悟ることが出来た。
結婚の式場で示した彼女の、処女らしい羞しさと、浄らかさ、それに続いた同棲生活に於て、自分に投げて来た全身的な信頼、日が経つに連れて、埋もれていた宝玉のように、だん/\現れて来る彼女のいろ/\な美質、そうしたことを、取とめもなく