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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
三
」と、微笑を含みながら云った。
信一郎は、夫人の真面目とも不真面目とも付かぬ態度に揶揄れたように、まごつきながら云った。
「実は、私は青木君のお友達ではありません。只偶然、同じ自動車に乗り合わしたものです。そして青木君の臨終に居合せたものです。」
「ほゝう貴君さまが……」
そう云った夫人の顔は、遉に緊張した。が、夫人は自分で、それに気が付くと、直ぐ身を躱すように、以前の無関心な態度に帰ろうとした。
「そう! まあ何と云う奇縁でございましょう。」
その美しい眼を大きく刮きながら、努めて何気なく云おうとしたが、その言葉には、何となく、あるこだわりがあるように思われた。
「それで、実は青木君の死際の遺言を聴いたのです。」
信一郎は、夫人の示した僅かばかりの動揺に力を得て突っ込むようにそう言った。
「遺言を貴君さまが、ほゝう。」
そう云った夫人のけだかい顔にも、隠し切れぬ不安がアリ/\と読まれた。
三
今迄は、秋の湖のように澄み切っていた夫人の容子が、青年の遺言と云う言葉を聴くと、急に僅ではあるが、擾れ始めた。信一郎は手答えがあったのを欣んだ。此の様子では、自分の想像も、必ずしも的が外れているとは限らないと、心強く思った。