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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
七
その美しい顔は勝平に対する憎悪に燃えていたからである。
七
青年が、何かを答えようとしたとき、女は突如彼を遮ぎった。
「もういゝじゃございませんか。私達が、参ったのがいけなかったのでございますもの。御主人には御主人の主義があり貴君には貴君の主義があるのですもの。その孰れが正しいかは、銘々一生を通じて試して見る外はありませんわ。さあ、失礼をしてお暇しようじゃありませんか。」
少女は、青年より以上に強かった。其処には火花が漏れるような堅さがあった。それ丈、勝平に対する侮辱も、甚だしかった。こんな男と言葉を交えるのさえ、馬鹿々々しいと、云った表情が、彼女の何処かに漂っていた。孔雀のように美しい彼女は、孔雀のような襟度を持っているのだった。
青年も、自分の態度を、余り大人気ないと思い返したのだろう。女の言葉を、戈を収める機会にした。
「いや、飛んだ失礼を申上げました。」
そう云い捨てたまゝ、青年は女と並んで足早に丘を下って行った。敵に、素早く身を躱されたように、勝平は心の憤怒を、少しも晴さない中に、やみ/\と物別れになったのが、口惜しかった。もっと、何とか云えばよかった。