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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
四
あゝいうお話はなるべく陰翳の残らないように、ハッキリと片を付けて置きたいと思いますの。ねえ、美奈さん、貴女このお話の、証人になって下さるでしょうねえ。」
「あ! 奥さん! 貴女は! 貴女は!」
青年は、狂したように叫びながら立ち上ると、続けざまに、地を踏み鳴らした。
四
青年が、狂気したように、叫び出したのにも拘わらず、瑠璃子は、冷然として、語りつゞけた。
「美奈さん、貴女には、お話しなかったけれども、妾青木さんから、一昨日の晩、突然結婚の申込を受けたのです。そうして、それに対する諾否のお返事を、今晩しようと云うお約束をしたのです。結婚の申込を直接受けたことを、妾本当に心苦しく思っているのです。せめて、お返事をするとき丈でも貴女に立ち合っていただきたいと思いましたの。」
美奈子は、何と返事をしてよいか、皆目分らなかった。たゞ、彼女にも、ボンヤリ分ったことは、美奈子が母と青年の密語を、立ち聴きしたことを、母が気付いていると云うことだった。美奈子が、居堪まれなくなって逃げ出したときの後姿を、母が気付いたに違いないと云うことだった。
そう思うと、自分の心持が、明敏な母に、すっかり悟られているように思われて、美奈子は一言も返事をすることさえ出来なかった。