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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

五

」

信一郎は、妻の静子の面影や、青木淳の死相を心の味方として、この強敵に向ってハッキリと断言した。

五

その刹那、夫人の顔が、遉に鋭く緊張した。

「あら、貴君までが、そんなことを考えていらっしゃるの。妾が貴君の家庭を擾すような女だと思っていらっしゃるの。貴君にも、やっぱり妾の真意が分って下さらないのですわね。妾が、何を求めているかが、やっぱり分って下さらないのですわね。妾は、妾の周囲の戯恋者には飽き/\したと申しているではありませんか。妾は戯恋の相手ではなく、本当のお友達が欲しいのです。本当の男性らしい男性のお友達が欲しいのです。妾が、この方こそと思ってお選みした貴君からそんな誤解を受けるなんて、妾には忍びがたい恥辱ですわ。」

そう云っている夫人の顔には、もうあの美しい微笑は浮んでいなかった。少しく、忿怒を帯びた顔は、振い付きたいような美しさで、輝いていた。

美しい夫人の顔に、忿怒の色が浮ぶのを見ると、信一郎は心の中で、可なりタジ/\となった。が、彼は自分のため、青木淳のため、また夫人その人のためにも、夫人の妖婦的な魂と、戦わねばならぬと決心した。彼は、夫人の美しい顔から、出来るだけ面を背けながら云った。