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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

四

勝彦は、離れの日本間の方で寝ている筈なのだ。が、それがもう夜の二時過であるのに、瑠璃子の部屋の前に立っている。それは、勝平に取っては、堪えられないほど、不快なあさましい想像の種だった。

「何をしているのだ! こんな処で。こんなに遅く。」何時もは、馬鹿な息子に対し可なり寛大である父であったが、今宵に限っては、彼は息子に対して可なり烈しい憎悪を感じたのである。

「何をしていたのだ! おい!」

勝平は、鋭い眼で勝彦を睨みながら、その肩の所を、グイと小突いた。

四

「茲に何をしていたのだ、茲に!」

父が、必死になって責め付けているのにも拘らず、勝彦はたゞニヤリ/\と、たわいもなく笑い続けた。薄気味のわるいとりとめもなき子の笑いが、丁度自分の恥しい行為を、嘲笑っているかのように、勝平には思われた。

彼は、瑠璃子やまた、直ぐ次ぎの扉の裡に眠っている美奈子の夢を破らないようにと、気を付けながらも、声がだんだん激しくなって行くのを抑えることが出来なかった。

「おい! こんなに遅く、茲に何をしていたのだ。おい!」

そう云いながら、勝平は再び子の肩を突いた。父にそう突き込まれると、白痴相当に、勝彦は顔を赤めて、口ごもりながら云った。