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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

余りに脆き

一

妾、勝彦さんのような、のんびりとした太古の心で、生きている方が、大好きになりましたのよ。貴方の前でございますが、何うして勝彦さんを捨てゝ、貴方を選んだかと思うと、後悔していますのよ。おほゝゝゝゝゝ。」

爽かな五月の流が、蒼い野を走るように、瑠璃子は雄弁だった。黙って聴いていた勝平の顔は、怒と嫉妬のために、黒ずんで見えた。

余りに脆き

一

勝平は、冗談かそれとも真面目かは分らないが、人を馬鹿にしているように、からかっているように、勝彦を賞める瑠璃子の言葉を聞いていると、思わずカッとなってしまって、手に持っている茶碗や箸を、彼女に擲つけてやりたいような烈しい嫉妬と怒とを感じた。が、口先ではそんな厭がらせを云いながらも、顔丈は此の頃の秋の空のように、澄み渡った麗かな瑠璃子を見ていると、不思議に手が竦んで、茶碗を投げ付くることは愚か、一指を触るゝことさえも、為し得なかった。

が、勝平は心の中で思った。此の儘にして置けば、瑠璃子と勝彦とは、日増に親しくなって行くに違いない。そして自分を苦しめるのに違いない。少くとも、当分の間、自分と瑠璃子とが本当の夫婦となるまで、何うしても二人を引き離して置く必要がある。