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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
四
瑠璃子には、結婚して以来、初めて夫の帰るのが待たれた。何時もは、夫の帰るのを考えると、妙に身体が、引き緊ってムラ/\とした悪感が、胸を衝いて起るのであったが、今宵に限っては、不思議に夫の帰るのが待たれた。勝平の鉄のような腕が何となく頼もしいように思えた。逗子の停車場から自動車で、危険な海岸伝いに帰って来ることが何となく危まれ出した。
「こう荒れていると、鐙摺のところなんか、危険じゃないかしら。」と女中に対して瑠璃子は、我にもあらず、そうした心配を口に出してしまった。
その途端に、吹き募った嵐は、可なり宏壮な建物を打ち揺すった。鎖で地面へ繋がれている廂が、吹きちぎられるようにメリ/\と音を立てた。
四
「こんなに荒れると、本当に自動車はお危のうございますわ。一層こんな晩は、彼方でお宿りになるとおよろしいのでございますが。」
女中も主人の身を案ずるようにそう云った。が、瑠璃子は是非にも帰って貰いたいと思った。何時もは、顔を見ている丈でも、ともすればムカ/\して来る勝平が、何となく頼もしく力強いように感ぜられるのであった。
日が、トップリ暮れてしまった頃から、嵐は益吹き募った。