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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

四

淋しいしかし安心な、暗いしかし質素な心持で、彼は大理石の丸柱の立った車寄を静に下った。もう此の家を二度と訪うことはあるまい。あの美しい夫人の面影に、再び咫尺することもあるまい。彼がそんなことを考えながら、トボ/\と門の方へ歩みかけた時だった。彼はふと、門への道に添う植込みの間から、左に透けて見える庭園に、語り合っている二人の男性を見たのである。彼は、その人影を見たときに、ゾッとして其処に立ち止まらずにはいられなかった。

四

信一郎が、駭いて立ち竦んだのも、無理ではなかった。玄関から門への道に添う植込の間から、透けて見える、キチンと整った庭園の丁度真中に、庭石に腰かけながら、語り合っている二人の男を見たのである。

二人の男を見たことに、不思議はなかった。が、その二人の男が、両方とも、彼の心に恐ろしい激動を与えた。

彼の方へ面を向けて、腰を下している学生姿の男を見た時に、彼は思わず『アッ!』と、声を立てようとした。品のよい鼻、白皙の面、それは自分の介抱を受けながら、横死した青木淳と瓜二つの顔だった。それが、白昼の、かほど、けざやかな太陽の下の遭遇でなかったならば、彼はそれを不慮の死を遂げた青年の亡霊と思い過ったかも知れなかった。