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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

五

が、衰弱が、いたましい衰弱が、彼女の凄艶な面に、刻一刻深く刻まれて行った。

彼女の枕頭に、殆ど附き切っている近藤博士の顔は、それにつれて、憂わしげに曇って行った。

「何うでしょう、助かりましょうか。」

父の男爵は、傍に誰もいないのを見計って、囁くように訊いた。

「希望はあります。けれど……」

そう答えたまゝ、博士の口は重く噤まれてしまった。

美奈子は、そうした問を発することが、恐ろしかった。彼女はたゞ、力一杯、心と身体との力一杯消え行こうとする母の魂に、縋り付いている外はなかった。昨夜中、眠らなかった美奈子の身体は綿のように疲れていた。が、彼女は誰が何と勧めても母の病床を去ろうとはしなかった。

瑠璃子は、昏睡から覚める度に、美奈子の耳許近く、同一の問を繰返していた。が、その人は容易に、来なかった。電報が運よく届いているかどうかさえ、判然しなかった。

午後三時頃だった。瑠璃子は、その衰えた視力で、美奈子をじっと見詰めていたが、ふと気が付いたように云った。

「青木さんは?」

美奈子は愕然とした。彼女は、暫らくは返事が出来なかった。

「青木さんは?」

母は、繰り返した。